序 研究会の趣旨と活動状況

社会資本整備の進め方研究会 委員長

放送大学徳島学習センター所長・徳島大学名誉教授

                                       河野  清

 

1 研究会の趣旨

 昭和40年代からの高度経済成長によって我が国は経済大国として発展してきたが、数年前のバブル経済の崩壊により減速経済となり、今日ではマイナス成長となってきびしい財政状況を迎えている。また、急速な科学技術の発展は、自然界になかった物質を生み出して文明社会に貢献し便益を与えているものの、一方では、公害問題を発生する原因ともなっている。さらに多量の二酸化炭素の発生による地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、などの環境問題を生じており、自然との共生の必要性が強く叫ばれている。

 このような状況の中で、多額の投資を行って人間と自然を相手として社会資本整備を進める公共事業に対して国民の目は一層きびしくなっており、情報を公開し、地域住民、関係者などの意見やニーズを的確に把握して、住民との合資形成を進め、協力を得ることなしには新規の公共事業を進めることは困難になっている。

 我が国では、従来から公共事業は官公庁が事業主体となって進められており、情報の公開が不十分であり、住民参加の経験が乏しい状況にあった。先進国の欧米についてみると、米国では1969年連邦議会でNEPA(国際環境政策法)が通過し、1970年1月1日から施行され、早くから環境を守るために住民参加を進めており、州によって合意形成のプロセスは異なるが計画段階から住民参加が可能となっている。イギリス、フランス、ドイツなどでは、住民が直接的に計画に携わることができるような協議の場が確保されている。我が国では漸く1997年6月に環境影響評価法が制定され、その適用は1999年6月からとなっており、新規の公共事業で計画段階からの住民参加は、まだ例がないのが現状である。

 昨今、人間の価値観が多様化し、多彩な要望があるので、民意をどのようなかたちで反映して行くか、住民との間の信頼関係をいかに構築して円滑に事業を行うかは、21世紀に向けてのきわめて重要な研究課題となっている。

 このような現状をふまえて、土木学会四国支部では、平成9年6月に四国社会資本問題研究会を発足し、その中の第一部会として社会資本整備の進め方研究会を設置して研究活動を開始した。

初年度は、パブリックインボルブメント(PI)の問題を取り上げ、我が国より早く住民参加を進めている欧米の事例、あるいはここ数年来の我が国とくに四国の事例を調査すると同時に、PIの研究者を講師として招いて講演会、ワークショップ等を開催してそれらの成果を「四国地方におけるPI導入に向けての事例研究と課題」と題して報告した。

二年目を迎えた平成10年度は、本研究会の中に香川、徳島、高知、愛媛の四県それぞれにワーキンググループ(WG)をつくり、各県のPIの代表的な事例を調査、研究するとともに各地区で講演会、研究会等を実施することにした。また、3月15日には(財)運輸政策研究機構の加藤調査役を招き、PIに関する講演会を行った。なお、主な成果については、平成11年5月22日(土)香川大学で開催される土木学会四国支部技術研究発表会においてフォーラムを実施し報告する。

なお、本報告は(社)四国建設弘済会より土木学会へ研究委託された「四国地方における社会資本整備の進め方に関する調査研究業務」の成果報告書として社会資本整備の進め方研究会の平成10年度の研究成果を取り纏めたものである。

2 活動状況

社会資本整備の進め方研究会では、委員会を3回行い、四県でWGをつくり、四国での事例を分析し、問題点や今後の課題を調査した。さらにPIに関する講演会、成果を報告するフォーラムを実施した。

 

2.1 委員会の開催

 第1回:平成10年9月25日(金)15時〜 建設クリエイトビル

   (1)平成10年度の委員について

平成10年度本研究委員会並びに各県WGのメンバーを決定した。

   (2)平成10年度研究計画について

 香川、愛媛、徳島のWGから本年度の調査、研究計画について報告があり審議した。(台風のため欠席の高知WGは次回)

   (3)平成10年度の予算について

 平成10年度予算のうち、各WGに100万、計400万を使用し、調査、研究を進めることにした。

 第2回:平成10年12月14日(月)14時〜 建設クリエイトビル

   (1)高知WGの研究計画について

高知WGの研究計画の報告があり、意見を交換した。

   (2)各WGの研究の中間報告並びに今後の調査工程について

 香川、愛媛、徳島の3県のWGより調査結果の中間報告と今後の予定の報告があり、審議した。

   (3)本年度の取り纏め方法について

平成10年度と同様の、年度末に報告書を取り纏める必要があり、その方針を検討した。

   (4)平成10年度の予算について

椎野委員から予算の概略について説明があり審議した

 第3回:平成10年度3月15日(月)15時30分〜 香川厚生年金会館

   (1)平成10年度各WGの報告について

 香川、愛媛、高知、徳島の各WGから各地区における社会資本整備事例とその評価について報告があり、意見を交換した。

   (2)平成10年度の予算執行について

 事務局より平成10年3月末日に本部事務局へ予算執行報告書を出す必要があり、WGへの依頼があった。また、報告書についてはカラー写真を10ページ程度加えることにした。

   (3)土木学会四国支部のフォーラムについて

5月22日(土)香川大学で開催のフォーラム(案)について審議し決定した。

   (4)平成11年度の研究計画について

 最終年の平成11年の各WGで深く掘りさげて事例調査を行い、公共事業を円滑に進めるにはどうすればよいかを示す方向で検討することにした。

   (5)その他

土木学会四国支部ホームページ委員会から依頼があった本研究委員会の活動について、委員会の承認をえて情報提供をすることにして、担当委員として廣瀬委員を決定した。

 

2.2 ワーキンググループの調査・研究活動

   (1)香川WGの調査・研究活動について

 香川WGは、香川地区における社会資本整備の事例として、(1)大内白鳥地区国道バイパス整備計画、(2)サンポート高松地区整備計画ににおけるPIの2つを取りあげアンケート等によるヒアリング調査と資料収集を行い、PI導入の留意点を考察した。また、呉工業高等専門学校の長町三生校長を招き、「感性工学と住民参加」と題し講習会を実施した。

   (2)愛媛WGの調査・研究活動について

愛媛WGは、愛媛地区における社会資本整備の事例として、(1)今治駅西地区土地区画整理事業、(2)上須戒川宅地等水防災事業にみるPIの2つを取りあげ、アンケート調査を行い、結果を分析し、総合評価を加えた。また、金沢大学工学部木俣昇教授を招き「公共計画へのPIとその支援システム」と題し講演会を開催した。

   (3)高知WGの調査・研究活動について

高知WGは、高知地区における社会資本整備の事例として、ワークショップ方式を用いてPIを実施した(1)県営住宅建て替え計画(2)道の駅「四万十大正」整備計画、女性8名を委員として検討した(3)あたたかな道づくりの3例を取りあげて考察し、成果と課題を示した。

   (4)徳島WGの調査・研究活動について

徳島WGは、徳島地区における社会資本整備の事例として、景観か渋滞緩和かで話題となった「万代橋計画をめぐる論議とその考察」を取りあげ、新聞、ラジオなどマスコミの情報提供の影響、アンケートの有効性などを考察した。

 

  1.  特別講演会の開催
  2.  平成11年3月15日13時30分から香川厚生年金会館において(財)運輸政策研究機構の加藤浩徳調査役の「我が国におけるPIの事例とその合意形成における特徴」と題する講演会を実施し、参加者とPIに関し意見を交換した。

     

  3.  フォーラムの開催

 平成11年5月22日(土)香川大学で開催される土木学会四国支部技術研究発表会において「公共事業におけるパブリック・インボルブメント−課題と展望−」と題するフォーラムを行い、平成10年度の研究成果を発表する。

 

3 社会資本整備の進め方研究会および四県WG名簿

  1. 社会資本整備の進め方研究会委員 名簿
  2.  委員長   河野  清  徳島大学名誉教授

                  放送大学徳島学習センター所長

     副委員長  荒木 英昭  高知工科大学 社会システム工学科教授

     副委員長  鈴木 幸一  愛媛大学 工学部 環境建設工学科教授

     委員    定井 喜明  徳島大学名誉教授

     委員    端野 道夫  徳島大学 工学部 建設工学科教授

     委員    山中 英生  徳島大学 工学部 建設工学科教授

     委員    白木  渡  香川大学 工学部 安全システム建設工学科教授

     委員    大谷 英人  高知工科大学 社会システム工学科教授

     委員    二神  透  愛媛大学 工学部 環境建設工学科講師

     委員    森下 一男  香川大学 工学部 安全システム建設工学科助教授

     委員    村西 正美  四国地方建設局 企画部企画調査官

    委員    松浦 壽彦  運輸省第三港湾建設局 高松港湾空港工事事務所長

    委員    武林 哲治  徳島県土木部 監理課 建設管理室長

    委員    山口 繁康  香川県土木部 土木監理課 技術管理室長

    委員    松浦 充伸  愛媛県土木部 土木管理課技幹

    委員    細川  広  高知県土木部 技術管理室長

    委員    高橋 文雄  日本道路公団 四国支社建設部長

    委員    山川 健蔵  (社)四国建設弘済会 常務理事

    委員    末沢  等  四国電力(株)建設部 計画課長

    委員    高橋 英雄  (株)新日本技術センター技術顧問

    幹事    廣瀬 義伸  徳島大学 工学部 建設工学科助手

    幹事    山口 行一  徳島大学 工学部 建設工学科助手

    幹事    門田 章宏  愛媛大学 工学部 環境建設工学科助手

    幹事    角道 弘文  香川大学 工学部 安全システム建設工学科助手

    幹事    山下 久男  四国地方建設局 企画部企画課長補佐

    幹事    椎野 左昌  (社)土木学会 四国支部

     

  3. 平成10年度 WG構成

香川WG

委員   ○白木  渡  香川大学 工学部 安全システム建設工学科教授

委員    吉野 文雄  香川大学 工学部 安全システム建設工学科教授

委員    森下 一男  香川大学 工学部 安全システム建設工学科助教授

幹事    角道 弘文  香川大学 工学部 安全システム建設工学科助手

委員    松浦 壽彦  運輸省第三港湾建設局 高松港湾空港工事事務所長

委員    山口 繁康  香川県土木部 土木監理課 技術管理室長

幹事    山下 久男  四国地方建設局 企画部企画課長補佐

 四国社会資本問題研究会委員

  愛媛WG

  副委員長 ○鈴木 幸一  愛媛大学 工学部 環境建設工学科教授

  委員    二神  透  愛媛大学 工学部 環境建設工学科講師

  幹事    門田 章宏  愛媛大学 工学部 環境建設工学科助手

  委員    松浦 充伸  愛媛県土木部 土木管理課技幹

 

  高知WG

  委員   ○大谷 英人  高知工科大学 社会システム工学科教授

  副委員長  荒木 英昭  高知工科大学 社会システム工学科教授

  委員    細川  広  高知県土木部 技術管理室長

  委員    轟  朝幸  高知工科大学 社会システム工学科助教授

第3部会委員

 

  徳島WG

  委員   ○山中 英生  徳島大学 工学部 建設工学科教授

  幹事    廣瀬 義伸  徳島大学 工学部 建設工学科助手

  幹事    山口 行一  徳島大学 工学部 建設工学科助手

  委員    武林 哲治  徳島県土木部 監理課 建設管理室長

    (○印:グループリーダー)


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